Vol.2:~レッドブル・エアレース2019年シーズンに向けて~



いよいよ1週間後に開幕する2019年シーズン。

どのような準備を経てレースへ臨むのか、

新たなルール変更はチームの戦略にどう影響するのか。

室屋義秀、2019年シーズン・キックオフ!
1月23日に都内で記者会見をおこないました。

Vol.2:~レッドブル・エアレース2019年シーズンに向けて~

Q:2019年の開幕戦は、いい状態の機体で迎えられそうですか?
A:はい。2018年の最終戦は、2019年の大会のつもりで戦いました。非常にいい状態でレースが出来たという実感があります。今年は落ち着いて初戦のアブダビに入っていけると思っています。

Q:ルールが大きく2点変わりました。獲得ポイントの変更についてはどうお考えですか?
A:Final 4、最低でもRound of 8に残らないと一気にポイントが離れてしまいますが、これは昨年までも似たような状況で、昨年の成績に当てはめても順位はあまり変わらないと思います。我々にとって大きいのは予選で獲得できるポイントです。予選1位通過で3ポイントが付きますが、チャンピオンシップを争う場面では3ポイントの有無がかなり大きな差になってきます。予選を1位で通過すると本戦Round of 14で予選最下位と対戦することになりますが、実力のある選手がDNF(ゴールせず)で最下位になっている可能性あります。これまでは予選は1位じゃなく、2位や3位でもいいかな?と思うところがありましたが、1位で3ポイント付くとなると予選も非常にヒートアップすると思います。

Q:観戦する側も新ポイント制度というのは面白くなっていくだろうという事ですよね。全体的に見ると室屋選手にとってプラスの変更ですか?
A:強いチームや、体制が整っているチームがポイントを伸ばしていくシステムになっていますので、我々にとっては非常に有利な改正だと思っています。ラッキー・アンラッキーという運による差が薄まってきますね。

Q:オーバーGのルール変更もありました。室屋さんはこの変更をどう感じていますか?
A:これまでは10G〜12Gを0.6秒以上記録すると+2秒、12Gを越えるとDNF(ゴールせず)のペナルティがありました。だから0.5秒11.8Gまでかけて、そのあと9.9Gにして、もう1回11Gをかけるというフライトをしています。このテクニックは僕が3年前位に取り入れましたが、他のチームにコピーされ、どのチームもおこなうようになり、それならもうシンプルに分かり易くした方がいいんじゃないかという議論がありました。
Gのコントロールについては違うソリューションやテクニックを開発する必要があり、1からの勝負になってくるので、結構面白い。我々には有利になるんじゃないかなと思っています。

Q:Over Gのペナルティの秒数が2秒から1秒に変更になったのも大きなポイントですね。攻めても大丈夫なのかなという印象もあるのですが…。
A:強いチームだと+1秒のペナルティでも勝ち上がる可能性が出てきます。+2秒だとさすがに追いつく可能性は少ないですね。煮詰まった場面になると目一杯勝負に出て1秒ペナルティをもらう作戦もありだと思います。目一杯使うと0.3~0.5秒くらい詰まってきますので、どこまで攻めるかという事になると思いますね。

Q:ルール改正にはレーストラックを作る側とパイロットの高度な駆け引きがあらわれていると感じます。今回のレーストラックは厳しいな~等と感じる事はありますか?
A:ありますね。各チームにタクティシャンと呼ばれる解析者がいて、レース会場に入る以前にレーストラックの分析・解析をおこなっています。8G位のマイルドなターンのライン取りでタイムが変わるような、深く解析をしないと分からない高度なレイアウトが増えてきていますので、我々のタクティシャンと、レーストラックを作るデザイナーのレベルの高いバトルがありますね。

Q:パイロットたちは分析されたラインを実現するというわけですね。レーストラックのトレンドのようなものはあるんでしょうか?
A:ライン取りの許容範囲が本当に繊細になってきていますね。1周目にミスをして機体の速度が落ちてくると一気に0.5秒とか1秒近くタイムが変わるような、非常に神経を使って飛ぶコースが増えています。
昨年から多いのは180度Uターンするようなコースです。ターンの間にある8G 位のゆるいコーナーはライン取りの選択肢があるんです。10Gのコーナーだと選択肢の余裕がないので目一杯ターンするしかないのですが、8G位のコーナーだと多少左右に振ることができます。このようなライン取りの選択肢のあるコースが今年もトレンドになると思います。

Q:練習できるのは5分のセッションを3回という限られた時間ですが、より高度な戦いになってきている中で、どんなトレーニングを取り入れているのですか?
A:最近は技術開発やテクノロジーが進んできていますので、昨年後半からシミュレーターやVR等を投入しています。まだプロトタイプではありますが、実際のコースを覚えていくという事をしています。ライン取りのイメージはつかめるのですが、VRではいくら操作してもGがかからないので気持ち悪くなって酔うんですよ(笑)VRは補助的な役割として良いと思いますが、Gがかかる中でトレーニングをするというのは、体的にも反応的にも違うので、やはり実機で飛ぶのが一番ですね。

Q:レースが終わると機体はすぐに次の会場へと運ばれていき、次の会場まで乗れないわけですが、その間はどのようにトレーニングしているのですか?
A:拠点にしているふくしまスカイパークにあるエアショー用の機体でトレーニングをしています。機体の特性が違うので、補助的なトレーニングになりますね。

Q:エアショー用の機体の他、もう1機レース機と同じものがあれば、より高度なトレーニングができるのではないですか?
A:レース機と同じ機体がもう1機あって、常にトレーニングと開発を進められるというのが理想ですね。クローン機があれば、他のチームを常に引き離せる状態になると思いますので、だれか買ってくれませんかね?(笑)競技というのはトレーニング等の準備次第ですから、どれだけ準備を積み重ねたかによって差が出てくると思います。福島に新しいハンガーができ環境は整ってきましたので、いよいよそのプロジェクトに向けてスタートしたいなと思っています。

Q:レース機と同じ機体を所有しているライバルはいるんですか?
A:そこまでしているチームはないと思います。我々が先行して開発して順次レースに投入していくという体制ができれば、他の追随は許さない状態になるでしょうね。

Q:昔から「操縦技術世界一」という目標を掲げられていますが、2017シーズンのワールドチャンピオンに輝き、目標を成し遂げたという事でしょうか?それとも目指すところは別にありますか?
A:2017年時点で達成したと言っていいと思うのですが、技術的な追及課題というのはまだたくさん残っていますし、やりたい事もいっぱいあります。操縦士道という道だと考えれば、追及していくことはまだたくさんあって、その中で真理を追求していくという事に終わりはないのかなと思います。それが1番の楽しみなので、自分の納得のいくところまで精進を重ねていきたいと思います。

Q:千葉大会の開催が9/7(土)9/8(日)に決まりました。5年連続の開催ですね。
A:9月の開催なのでシーズンの後半戦に入ってくる頃だと思います。8月はサマーブレイクでレースが空くことが多いので、早めに機体を福島に搬入してテストをおこなえるかもしれません。後半戦と2020年に向けて、開発も含めたプロジェクトが出来たらいいなと考えていますので、非常にいい時期だと思います。