Vol.1:~レッドブル・エアレース2018年シーズンを振り返って~



世界の頂点に居続けることがどれだけ難しいかを実感した2018年シーズン。

ライバルよりも更に前へ。

多くの研究・開発を進めたTeam FALKENの1年を室屋が振り返る。

室屋義秀、2019年シーズン・キックオフ!
1月23日に都内で記者会見をおこないました。

Vol.1:~レッドブル・エアレース2018年シーズンを振り返って~

Q:レッドブル・エアレースの2018年シーズンは総合5位でした。振り返ってどのようなシーズンでしたか?
A:シーズンを通じてDNF(ゴールせず)等の様々なトラブルがあったわりには、総合5位に入りました。チームの能力は、決して悲観するような状態ではなく、悪いシーズンだったとは思っていません。

Q:非常に僅差のレースが繰り広げられましたね。
A:そうですね。ルーキーパイロットもいますが、チャレンジャークラスを経てマスタークラスに入ってきている事が大きいと思います。現在チャレンジャーの機体はマスターと同じEDGE540を使用していますし、マスターに近い状態で熾烈に戦えているので、即戦力でレースの上位に絡んできます。タイム差もポイント差も詰まってきていて、本当にタフなシーズンでした。

Q:その中で戦っていく上で、チームの経験値というのは大きいですか?
A:我々はワールドチャンピオンを獲ったチームですから、勝つためには何が必要かを把握しています。とはいえ、レースも他のチームもどんどん進化しています。ライバルの更に一歩も二歩も前に出るように常に研究・開発・トレーニングを続けていかないと勝てないなというのが昨年の実感です。

Q:機体のアップデート等、常に新しい事に挑戦していかなければならない立場になったという事でしょうか。
A:その思いは非常にあります。我々のチームは研究・開発をかなり進めていると思うのですが、2018年は少しやりすぎたという感触がありました。研究・開発を進めるのはよいのですが、テストの時間が足りなくて裏目に出たということがありました。それが大きな反省点であり、2019年に活かせる点だと思います。

Q:垂直尾翼のアップデート等もありましたね。
A:千葉戦の予選では小型の垂直尾翼でフライトしました。重量が軽くなり、空気抵抗が減る等、色々なメリットがあるのですが、操縦が非常に難しくなります。自分の操縦テックニックでなんとか抑えられるんじゃないかなと思っていたのですが、非常に繊細なレースの中では、性能を発揮する事ができなかった。そして決勝日に元の大きい垂直尾翼に戻しました。もう少しトレーニングやテストが必要なパーツだと思います。今もテストを進めています。

Q:第7戦インディアナポリス大会では両翼のウイングレットを投入しました。
A:念願でしたね。2016年シーズンから開発を進めていて、2017年に投入しようとしましたが、レギュレーションで止められた為に投入できませんでした。2018年第7戦から投入して、よい結果が出ているので、2019年シーズンもこのままでいくと思います。

Q:更に第8戦ではエンジンも入れ替えたと伺いました。
A:エンジン自体はまだ使える状態ではありましたが、2018年最終戦後は2019年開幕戦に向けて機体が送られるために機体にアクセスすることができません。最終戦前にエンジンのチェックも含めてアップデートをおこない、2019年シーズンを盤石なものにしようということで、昨年の最終戦前にエンジンを交換しています。

Q:結果は5位でFinal4に進出できませんでしたが、非常にいい戦いでしたね。
A:予選も本戦もいいレースでした。いいフライトでしたし、自分のコンディションも非常によくて集中もできていました。ベストなフライトだったと思うんですけどね。

Q:対戦したのはカービー・チャンブリス選手。室屋選手が先攻で非常にいいタイムを出して、これ以上のタイムはないだろうと思っていたのに、後攻のカービー・チャンブリス選手がそれを上回るタイムを記録し、本当にいいバトルでしたね。
A:僕はもう勝ちを確信していました(笑)それくらいのタイムだったので、まさか負けたと思わなかったです。実力を100%出しても、スポーツの世界には運・不運というのもあって、昨シーズンは自分がチャンピオンを獲るような流れではなかったなという思いが最後のフライトで出てきました。でも、それも含めて今シーズンの課題でもありますね。

Q:2018年はワールドチャンピオンとして頂点に到達した後のシーズンでした。色々なことを想定していたと思いますが、やってみないと分からない事がたくさんあったのではないでしょうか?
A:世界の頂点に立ってみると、そこに居続けることがどれだけ難しいか。自分自身はもちろんのこと、周辺も含めてどうコントロールしていくか、極めて難しい世界だと深く実感しました。

Q:ワールドチャンピオンを2年連続で達成するというのは、12年の歴史の中でポールボノム選手が獲った以外は成し遂げられていません。
A:どんなスポーツでも何回もタイトルを獲る人というのは、1回だけのチャンピオンと1つ・2つ次元が違うように感じます。頂点にいながらにして、道を創り続けて、引き離していかなきゃいけないので、極めて難しい作業だと実感した年でした。でもそのやり方も見えてきた気もします。また新たに1から戦っていった方が楽しいかなと思っています。